AI:ソムニウムファイル【感想・レビュー】

レビュー・感想

『AI:ソムニウムファイル』はスパイク・チュンソフトからリリースされた、東京を舞台に起こる猟奇的な連続殺人を追う、警視庁の捜査官が主人公のアドベンチャーです。

降りしきる雨の中、ひとりの女性の遺体が発見された。場所は廃墟と化した遊園地のメリーゴーランド・・・。その遺体の顔には左目がなかった。どうやら犯人にくり抜かれ、奪われたらしい。

公式 https://www.spike-chunsoft.co.jp/ai/

シナリオ、システム、キャラデザイン、演出、プレイヤーへの配慮、すべてに気合いの入った力作アドベンチャーです!

猟奇殺人を軸に物語が展開するため、残酷な描写や流血シーンがあること(CERO Z指定)、ノリが極端にギャグ方向へと振れていることから「万人にお勧め!」とまでは言いがたいですが、ADV好き、ミステリ好き、そしてこのゲームにちょっとでも興味を持った人には一度触れて欲しい作品です。

ゲームは現実と夢の中を行き来しながら進行

『AI:ソムニウムファイル』は、現実世界での捜査パートと、捜査対象者や事件関係者の夢の中で記憶を探るソムニウムパート、2つのパートを行き来しながらゲームが進みます。

主人公の伊達は過去の事件によって左目を失っており、眼窩には代わりにAIのアイボゥが収まっています。この相棒のアイボゥと共に連続殺人事件を捜査する、いわゆる刑事のバディものですね。

捜査パートはオーソドックスな作り

『AI:ソムニウムファイル』の捜査パートは、他のアドベンチャーでもよく見られるような比較的オーソドックスな作りです。捜査する場所を選び、移動し、その場所や人物から殺人事件解決の手がかりとなる情報を探っていくことになります。

捜査の際、登場人物との会話は上下左右ボタンに割り振られた選択肢によるため、コマンド選択式と比較して、プレイヤーが好きな選択肢を直感的に選ぶことができます。選択肢に対する回答も、そのほとんどが簡潔にまとめられているので、プレイヤーが延々と長文のテキストを追う負担もありません。

後で触れますが、『AI:ソムニウムファイル』ではこの手のゲームの中ではキャラクターが非常に生き生きと顔や動作で表現してくれます。
選択肢から直感的に話題を選べること、会話が短く区切られることは、それらと組み合わさっていま目の前でキャラと話しているという臨場感、ライブ感を上げる役割としてもうまく機能しているように思います。

捜査の要所では、事件を推理するための証拠の組み立てを求められることも。これによって、ただテキストを追っていくだけではない、能動的な捜査であるプレイフィールも加味されます。

証拠の組み立てに失敗してもフォローが入るので、正解できなければバッドエンドということはありません。推理モノが苦手な人でも、この辺は安心してプレイできます

ソムニウムパートは手探りで進むドキドキ感

現実世界の捜査パートで容疑者や事件関係者の証言がうまく得られないとき、主人公の伊達は捜査官として警視庁に用意された特殊な機器を用いて他人の夢の中に入り、そこで深層心理に隠された事件解決の手がかりを探ります。

事件の容疑者や関係者の夢に入り込むわけですから、そこに広がる世界はかなり独特な雰囲気。現実世界のように自然法則に沿って物事が進まないので、何をどうすればよいのか、ゲームを手探りで進めるドキドキ感もあります

他人の夢に入り込んで猟奇的な事件の捜査を進めるという設定は、映画『ザ・セル』などを彷彿とさせますね。

新たに誘拐され、行方不明の被害者はどこかに監禁されているはずだ。だがその場所は犯人だけしか知らない。協力を要請されたキャサリンは、スターガーの潜在意識へ入って行く…。

もっとも『AI:ソムニウムファイル』のほうは主人公の伊達が相当におちゃらけた性格なので、夢の中も『ザ・セル』ほど重苦しい雰囲気にはなりません。

相棒のアイボゥが大活躍

このソムニウムパートでは、主人公の伊達ではなく左目に宿るAIのアイボゥが擬人化して活躍します。

少女のような出で立ちで現れるのは、主人公が好みそうな容貌をAIがサービスした結果らしいのですが(もっとも主人公は好みであることを否定しますが)、この擬人化アイボゥが『AI:ソムニウムファイル』では非常にいい味を出しています。

制限時間の存在がパズル要素に

他人の記憶を垣間見ることができれば、捜査方法としてかなり強力ですよね。ならばこれを活用してさっさと事件を解決したいところなのですが、残念ながらそうはいきません。

というのも、他人の夢にいる時間が長すぎると、侵入した側の人格が危機にさらされてしまうというデメリットがあるため、対象者の記憶に隠れた解決の鍵をすきなだけ捜査できるわけではないからです。

より具体的には、上記理由からソムニウムパートの操作時間は6分(360秒)以内という制限が設けられていて、何か調べるたび、行動するたびに残り時間が刻一刻と減っていくことになります。

また、調べる対象によって、次に調べる対象に必要な時間を延ばしたり、逆に縮めたりできるボーナスタイム(ペナルティタイム)も影響してくるため、どの対象を、いつ、どんな順番で調べていくか組み立てるパズル的な要素も色濃いパートとなっています。

捜査パートは制限時間なし、ソムニウムパートは制限時間あり。捜査パートはオーソドックスなシステムで、ソムニウムパートは独特のシステム。異なるパートが交互に展開することで、『AI:ソムニウムファイル』はプレイが中だるみしにくいテンポを作り出しています。

ソムニウムパートの行動でルートが分岐

『AI:ソムニウムファイル』では、ソムニウムパートの選択によってルートがいくつかに分岐します。そして、各ルートはある程度進めた段階でロックがかかり、他のルートをクリアしていなければその先へ進めない状態に至ります。

各ルートには一応のエンディングが用意されているものの、軸となっている連続殺人の謎を解くためには、すべてのルートをクリアしなければなりません。

ちなみに、私が最終的なクリアまでに要した時間はおよそ25時間程度でした。

各ルート、進めるたびに「どういうこと?」「前のルートで言ってたことと矛盾しない?」「もしかしてトンデモ系?」と疑問が次々と発生するので、本当に1つのエンディングとして収束するのか不安になるくらい。それが最終ルートに乗ったとたん、謎がバッタンバッタンとドミノのように倒されて本当の姿が立ち現れてくる。やはりここが『AI:ソムニウムファイル』最大の魅力です。よくこんな面倒なシナリオをゲームとして形にしようと思ったなぁ。

他のルートで異なる展開を目にしているからこそ、またルートごとに登場人物それぞれのエピソードを経験しているからこそ、最終的なルートに納得感や重みがググッと加わります。

ただ、このゲームは終盤に怒濤の展開を凝縮させていることによって、反対に、前半は謎ばかりが積み重なり一向に解決しない状況が続きます。この点は、前半でモチベーションをなかなか上げにくい要因にもなっていますね。

あと同じ打越氏の関わった『Ever17』と比較すれば、プレイヤーにも各ルートでヒントが小出しにされるので、そのぶん予測する楽しみは増えているものの大どんでん返し的な衝撃は抑えめです。

シナリオと生き生きしたキャラが結合して魅力的なゲームに

『AI:ソムニウムファイル』を魅力的なゲームにしている大きな要因、それは登場人物がとても生き生きとしていて存在感があることです。

もちろん、前提として打越鋼太郎氏が携わった非常に面倒な構成で編み上げたシナリオが、ゲームの土台として存在することがは大きいのですが、そこに現れるキャラに対しての作り込みもまた相当な気合いです。両者がしっかりと結合することによって、魅力的なアドベンチャーに仕上がっています。

コザキユースケ氏によるキャラデザインも、ヒロインのイリスを筆頭に作品世界の魅力を底上げしていますが、それを3Dモデルとして作り上げたスタッフさんの熱意と、血を通わせた声優さんの演技も素晴らしい。

しかも『AI:ソムニウムファイル』では、登場人物の台詞がフルボイスであるにとどまらず、ゲーム中、左下に表示されるバストアップのグラフィックも台詞の内容に合わせて表情を変え、違和感なく口を動かします。

さらに画面奥に表示される登場人物たちも、話者を見たり、会話の内容に応じて視線や顔を動かしたり、身振り手振りを加えたり、とにかくよく動く。キャラの存在感、場の臨場感が濃い。

端役も手を抜くことなく、キャラデザインやモデリング、動作まで相当なこだわりで作られています。

女性キャラに引き換え、男性モブキャラの扱われ方の酷さ(笑)

ここまで触れ忘れてしまいましたが、BGMも作品世界とマッチしていて作品の魅力をより引き立たせています。

会話のほとんどがギャグ!

『AI:ソムニウムファイル』のもう一つの特徴、それはギャグがこれでもかと詰め込まれていること。

猟奇的な事件を解決していくことが主軸ですが、だからといってゲーム全体が暗く陰惨な雰囲気かというと、実は全然そんなことはありません。会話のほとんどがギャグといってもよいくらい、特にゲーム前半は軽いノリで物語が展開するため、プレイ前の先入観、オープニングから受ける重苦しい雰囲気とのギャップに戸惑ってしまうほどです。

「シリアスな展開にギャグもちりばめられ……」というレベルじゃなくて、『AI:ソムニウムファイル』の場合はベースがギャグなんですよね。

ギャグについては大人のウィットに富んだユーモアではなく、小学生、中学生レベルの下ネタ、80年代のエロ主人公的なノリが大半です。敵との戦闘も、飛び交うのは銃弾というよりエロ本や下着という始末。ほかには他作品のパロディも結構多く仕込まれてますね。

ここまで徹底してアホなノリを詰め込んだアドベンチャーというのは、それはそれで希有な存在ではありますが……悲しむべきシーンにもおふざけを投入してくるため、フィーリングが合わないプレイヤーには苦痛になってしまうでしょう。

もう少しシリアス寄りにしたら、もっと広い層に支持されやすく一般的にも評価の高いタイトルになった可能性もあるのですが……『AI:ソムニウムファイル』は、そうなることを自ら全力で否定するような作りなんですよね。この意地の張り方と歪みかた、まるで伊達の性格のよう。

プレイヤーをフォローする要素も多々

『AI:ソムニウムファイル』は、プレイヤーのフォローにも力が入っています。

ルートの選択や分岐へのジャンプ、シナリオチャートなどが非常に分かりやすく利用しやすいインターフェイスで用意されているので、何か操作する際のストレスがほとんどありません。

いや正直にいえばソムニウムパートのマップだけは、わかりにくさが半端なかったですよ。

また、ゲームを一度中断してあらためて始めるときは、直前の出来事が画面上を走馬灯のように流れていくので、ストーリーをどこまで進めたか、どのような状況で中断したのかすぐに思い出すことができます。

ゲーム中も、その場に居ない人物について誰かが言及したときや、会話で過去の出来事に触れたときには、人物や出来事がワイプ動画で流れます。

これによって、細切れの時間で少しずつゲームを進めるプレイヤーでも、ストーリーや登場人物の記憶が薄れてしまう心配がありません。

もっとも、これは私が遊んだのがSwitchのパッケージ版だったからなのかどうか分かりませんが、ゲームが後半になるほどワイプ動画が流れる直前の読み込み(その間、操作を受け付けずフリーズ)が長くなり、終盤は10秒近く待たされることも多くテンポが悪くなったのは少し残念なところでした

アドベンチャーが好きなら遊んでほしい1本

『AI:ソムニウムファイル』は下ネタやギャグが多めで、血の流れるシーンも存在することから、冒頭で触れたように万人におすすめ!とはいえません。

また荒唐無稽な設定も存在しますし、ご都合主義的な展開もちょこちょこ見受けられます。ソムニウムパートだって、後半はパズル要素が増してクリアするのが面倒に思えたことも事実です。

ですが、この手の込んだシナリオ、制作が面倒そうな並行世界的ルート分岐、生き生きと魅力的なキャラたちが、1本のゲームとして結実したアドベンチャーはそうそうありません

アイボゥもプレイするほど魅力が増して、クリア後しばらくはアイボゥロスのような脱力ともの悲しさを感じてしまうほどでした。

『AI:ソムニウムファイル』、アドベンチャーというジャンルの持つ魅力を知るプレイヤーには「これやらなくて、何やるの?」と煽ってでも遊んでもらいたい1本です。