殺人探偵ジャック・ザ・リッパー 【感想・レビュー】

レビュー・感想

『殺人探偵ジャック・ザ・リッパー』は、日本一ソフトウェアから新規にリリースされたアドベンチャーです。「選べ、善か悪か―。」プレイヤーは殺人鬼の人格を宿すことになった私立探偵のアーサー・ヒューイットとして、連続殺人などの事件調査を進めていくことになります。

公式 殺人探偵ジャック・ザ・リッパー

オーソドックスなテキスト中心のアドベンチャー

善か、悪か。探偵として捜査を進めるのか殺人鬼として事件の犯人をこの世から消し去ってしまうのか。選択肢はゲーム中に現れはしますが、その出現頻度はかなり少なめなので、『殺人探偵ジャック・ザ・リッパー』のシステムは非常にシンプルです。

どちらかといえば、テキストを追って物語を読んで楽しむノベル系のゲームです。

物語は章立てで進み、それぞれの章の重要なシーンに現れる選択肢を選ぶことによって、探偵ルートでストーリーが展開するか、それとも殺人鬼ルートでストーリーが展開するかが変わります。

探偵に殺人鬼の人格が憑依することで「もし」を実現できれば、かなり面白いゲームになりそうな設定です。探偵として事件は解決したものの、法や刑事的手続きに縛られることで懲らしめることのできなかった悪人を、殺人鬼の人格を秘めた主人公が直接に手を下すとか。あるいは逆に、殺人鬼として殺すことでしか止められなかった事件を、探偵として証拠を集めて法的にしっかり裁くとか。

ゲーム中に現れる選択肢の中には、選んでしまうとそこでバッドエンドへ分岐してゲームが終了してしまうものも。バッドエンドに至ったときは、その直後にコミカルタッチでメタなやり取りが行われる「ボーナスシアター」が始まり、なぜその選択肢を選ぶことがまずかったのかを教えてくれます。

一枚絵はシーンごとに綺麗なグラフィックが用意されている

『殺人探偵ジャック・ザ・リッパー』の長所。一枚絵は結構綺麗で、雰囲気の出ているものが多かったです。主人公しかり、周囲を取り巻く登場人物しかり。

そこまで枚数が多いというわけではありませんが、逆に少ないなと不満に思うほどでもなく、適度な数のグラフィックが物語の要所要所を彩ってくれます。

問題は、その長所をスポイルしかねないシナリオなわけですが。

そうだな、一言で言ってしまえば「欲しかったのは達成感!」かな。

達成感に乏しいシナリオの展開がつらい

『殺人探偵ジャック・ザ・リッパー』、私は探偵ルートと殺人鬼ルート両方のエンディングまでプレイしましたが、プレイヤーがどちらを選ぶにしても、とにかく達成感が乏しいです。各章の、そしてエンディングでのカタルシスが不足しています。

ゲームの作りがテキストを読み進めること中心なので、プレイヤー自身が事件の操作を進めている感覚がどうしても薄くなりがち。だからこそ、シナリオでぐいぐい引っ張っていって欲しいところなのですが、本作では読み進めるのが次第に辛くなり、単なるページ送り作業と化してしまいます。

主人公が「探偵」なので、もう少しだけ推理要素や気になる謎、どんでん返しや以外な犯人なども用意してもらいたかったかな。ただこの辺は私が普段ミステリ読みなので、たとえ「探偵」という単語の入るタイトルでも過剰な期待はかけないようにしてます。

「善か悪か、それは絶対ではなく人の置かれた状況によって左右される相対的なものである」といったテイストも醸し出す探偵パートを仮に是と捉えても、それを問答無用で切り捨てる殺人鬼ルートの存在が作品全体のイメージをぶち壊してしまいます。

探偵ルートでは法律や手続きで悪人を裁けても、結局のところ悪人は生き延びる……。そんなモヤモヤした感情を、殺人鬼ルートでは必殺仕事人のように超越的存在のダークヒーローが晴らし、さらに先の悪まで暴いていく。悪だけど善、善だけど悪みたいにプレイヤーの視点からも善悪を相対化して、禁じられているからこその葛藤とカタルシスを味わえる。

本作のタイトル名から、そんな内容を少しは期待してしまいました。

しかし、実際はそういった展開はほとんど皆無。極論すれば殺人鬼ルートは単に人を殺したい主人公が他人の気持ちも推し量らず、暴れまわって命を奪うだけ。

2つの視点からプレイできる特徴を活かして、いずれかのルートでは触れられなかったり解明できなかったりした問題や人間関係が、別ルートを進めることで初めて「なるほどそうだったのか」という驚きがあればまだ良かったのですが……。

探偵として犯人を殺さずに捕まえるのか、殺人鬼として無慈悲に殺してしまうのかの違いはあれど、それ以外は同じレールに乗って進むため、別ルートを進める新鮮味もありませんでした。

選択肢がルート選択としての役割しかはたしていない

『殺人探偵ジャック・ザ・リッパー』の大きな短所としては、見てすぐどちらが適切であるか分かってしまう選択肢のつまらなさも挙げておきたいところ。

一方が明らかに場にそぐわない選択肢であることから、ゲーム全般、一本道感がより強いものとなってしまいます。

その場の状況から正解とは思えないほうの選択肢を選ぶと、思ったとおりにバッドエンドへ。不正解の選択肢を選んだ後、起こるエピソードも「残念でした、はい死にました」的なもので、敢えて不正解を選んで登場人物たちの会話やその後の展開を確かめる楽しさもありません。

バッドエンドだと始まる「ボーナスシアター」は、そういった不満へのフォローとして設置された意図が強いのかもしれません。しかしボーナスシアター自体にもやり取りに深みのない会話が続くだけなので、個人的にはこれも辛かった。

たまに出てくる、どちらが正解なのか判別しにくい選択肢でハズレのほうを選んでしまうと、バッドエンドへ持っていかれてゲームオーバーというのもプレイヤーとしてはストレスが溜まります。

しかもその後のボーナスシアターで理不尽さを開き直ってくるので、キャラのコミカルな演技でプレイヤーのストレスを薄めるどころか余計に濃くしてくる始末です。

選択肢の存在理由が、各章の要所で探偵ルートと殺人鬼ルートを分岐させるためだけの単なるスイッチに成り下がってしまっています。

立ち絵を左右反転して使うとキャラ設定が曖昧に

もう一つ、このゲームの大きな短所を挙げるとすれば、登場人物の立ち絵が左に現れるか右に現れるかによって、絵が左右反転して使われていることです。

探偵である主人公の中で殺人鬼の人格が強まると、片目の色が赤になります。これが主人公の動き回るシーン内では、短い時間に左右反転され右目だったり左目だったり入れ替わるため、仮にも主人公であるアーサーにさえ「適当」な雰囲気を感じとってしまいます。

主人公からして左右反転で適当な扱いなので、他の登場人物も言わずもがなです。

主要キャラであるマフィアの女ボス、ローリィも、片手にファミリーを表すタトゥをしていますが、それもまた登場シーンによって左手だったり右手だったり。

右に現れるとタトゥは左手に。
帽子の花飾りも頭の左に。

左に現れるとタトゥは右手に。
帽子の花飾りも頭の右に。

途中で「もしや両手にタトゥしてたんだっけ?」と混乱するものの、出てくる一枚絵では右手にタトゥは入れておらず、やはり左手のみ。

細かなところですが、主要キャラの雑な扱いはかなり魅力減です。ローリィは結構お気に入りのキャラでしたが、だからこそタトゥの位置も大事にして欲しかったなと。綺麗な一枚絵が表示されてもタトゥの位置ばかり気になるなんて、ぼかぁ悲しいよ。

探偵+殺人鬼という設定を活かしてほしかった

私立探偵と殺人鬼ジャック・ザ・リッパーの二重人格的な組み合わせという企画は面白いはずなのですが、それがどうも魅力をプラスする要素として活かせていないように感じます。

主要な登場人物の中で、ジャックのキャラ(実体は無いので主人公のアーサーの脳内だけに居座る存在ですが)はなかなかに魅力的で人間味あふれるのですが、それが逆に殺人鬼ルートで次々と人を殺していくアーサーに対する違和感、プレイヤーの置いてけぼり感を助長しているようにも。

アーサーが殺人を次々と犯していくならジャックはもっと非道であるほうが構図として落ち着きますし、それならいっそシンプルに、アーサーの人格が次第に狂気を帯びつつも快感や葛藤を覚える「ジキルとハイド」的な流れをとるほうが、プレイヤーとしては恐怖心を軸に感情移入しやすかったかも。

それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。