『フォーゴットン・アン』(FORGOTTON ANNE)は、人間から忘れられたものや失われたモノが行き着く世界フォーゴットンランドを舞台に、反乱勢力を鎮め世界の秩序を維持するために冒険に出る執行官アンを主人公とする、2Dアクション・アドベンチャーです。デンマークのThroughLine Gamesが開発、販売はChorus Worldwideが手がけています。
主人公アンは師匠のボンクと共にフォゴットンランドの秩序を守る者として、この世界で暮らしています。「モノ」ではなく人間である二人がなぜフォゴットンランドにたどり着いたかは謎ですが、すべてのフォゴットリングたちが人間の住む世界へ帰れるようになる装置「イーサゲート」の建設に取り組んでいます。
「アニメーションを操作できたら」が実現
『フォーゴットン・アン』最大の特徴は、なんといっても手書きアニメーション風の世界に、ゲームのコントローラーを介して参加・介入できること。
ディスプレイに現れるのは、非常になめらかに動く(ちょっと懐かしい雰囲気もある)アニメの世界。初めてプレイしたときは、「お!」と声が出てしまうような魅力があります。
プレイヤーキャラである執行官のアンも、いわゆるゲーム的な動きではなくアニメの登場人物のような動作で移動します。
この操作キャラクターのなめらかな、というよりなめらかすぎてクネクネする動き、往年の『プリンス・オブ・ペルシャ』を思い出してしまいました。冒頭こそちょっとクネクネして動かしづらい面もありますが、すぐ慣れます。
フォーゴットンランドは忘れ去られた「モノ」たちの世界なので、執行官のアンとその師匠ボンクを除けば登場人物はすべて人間ではない「モノ」です。
その点、登場するモノたちも手書きアニメーションのような色艶で動くので、モノといっても冷たい印象はなく、どのキャラクターにも温かみが感じられます。
静止画で見てしまうとそれほどアニメに入り込む雰囲気が感じられないかもしれませんが、実際にプレイしてみると思った以上にアニメの世界へ入りこんだような感覚を得られます。
アニメパートとのシームレスな進行
アニメの世界へ入り込むような感覚を抱かせる要因の1つは、アニメムービーのパートと操作パートがシームレスで進行することにあります。
場面が変わることなくムービーから操作パートへ移行し、また逆に操作パートからムービーへ継ぎ目なく変化する。それによって、各々が異なるものである感覚がほとんど生じず、ゲームの進行が1つにまとまるため没入感にも繋がります。
これだけシームレスに進行すると、もはやムービーパートと操作パートを分けて考える必要もないほどですね。
プレイ中、ほとんどロードの時間を気にするシーンが無いことも、プレイ全体のシームレス感に繋がっています。
選択による会話内容やエンディングの分岐
アニメ世界への没入感で」いえば、『フォーゴットン・アン』はいたるところで選択肢が表示され、それが以後の会話内容を変化させるような作りになっています。
何を考え、どう行動したいのか、主人公アンの行動がプレイヤーに委ねられることによって、よりキャラクターとのシンクロが図れ、物語世界との重なりを感じられます。
選択による行動の積み重ねは、最終的に『フォーゴットン・アン』のエンディングを左右することにも。
アクション要素とパズル要素
ゲームのメインはアンを横方向に移動させて登場人物と会話したり物を調べたりするADVですが、途中、ジャンプアクションの要素やパズルの要素がアンの行く手を阻みます。
ジャンプアクションについては、通常のジャンプ以外に序盤で手に入るウイングを使った大きなジャンプを組み合わせて、あちらからこちら、こちらからあちらと飛び移って移動することが求められます。
ただし、アクション要素があるといっても『フォーゴットン・アン』にはダメージを与える敵キャラクターや制限時間は存在しないので(そもそもアンに体力の設定もありません)、それほどアクションを得意としない人でも、何度かチャレンジしていれば先へ進むことはできると思います。
パズル的な要素としては主に「アニマの流れ」があります。アンが腕に巻くアルカという道具によって、この世界のエネルギー「アニマ」を抽出したり送り込んだりすることができます。
アニマが流れていて動いている仕掛け、逆に流れていないため動かない仕掛け、それぞれアルカによってアニマを流し込んだり、あるいはアニマの流れる管の分岐を切り替えたりレバーを押したり引いたりすることで、道を切り開きます。
序盤こそ簡単な操作のみで先へ進む道が開かれますが、後半になるほど「こっちの機械を動かすためにここを切り替えて……あ、だめだ。それだと前提の機械が止まっちゃう」といった試行錯誤が必要に。
アンが腕に巻くアルカはアニマを抽出することができるので、上で触れたような仕掛けを解く使い方の他に、物語的にはアニマによって生を受けているモノたちから「アニマを抜き取る=死に至らしめる」といった用途の是非も絡んでくる、重要なアイテムとなっていきます。
思い込みや勘違いが「詰まった!」の要因に
『フォーゴットン・アン』の雰囲気が気になって購入を検討しているものの、アクション的な、あるいはパズル的な要素があることで、ストーリーを進めることができるか不安に思われ躊躇している人も中にはいるかもしれません。
繰り返しになりますが、『フォーゴットン・アン』には攻撃してくる敵キャラや制限時間、あるいはアンの体力などは設定されていないので、アクション部分は焦らずに試すことが可能です。そのため、比較的アクションが苦手な人でもそこまで心配する必要はありません。
どれだけ高いところから落下してしまっても、このタイトルにはゲームオーバーというものがありません。そのため、安心してジャンプアクションにチャレンジすることができます。
そうは言っても、かなり高いところから落ちるとアンもかなり辛そうなので、できれば避けたいところではありますが……。
また、パズルも何度かトライすることで意味や解法が分かってくるので、難しいパズルが壁となってストーリーが進まないという事態にも陥りにくいです。
むしろ、詰まる要因となるのはアクションやパズルの難しさよりも、自分の思い込みや勘違いによって誤った操作や解法に延々とトライしてしまうことです。
「ジャンプがどうしても上手くできなくて、先へ進めない」そう思ったときは、もしかするとジャンプして移動しなければならないと思い込んでいるだけかも?
「仕掛けを上手く動かして道が作れない」そう思ったときは、そもそも別の道を見落としているだけかも?
特に本作の場合は2Dアニメーションの雰囲気から脳が勝手に「奥方向や手前方向には移動できない」と思い込んでしまいがち。実はコントローラーの上を押して画面奥へ移動することで、新たなルートが見つかることも。
解法のヒントが少ないのが唯一の短所か
もし『フォーゴットン・アン』の短所を1つ挙げるとすれば、それは思い込みや勘違いによって詰まってしまうような場面で、解法のヒントが少ないことです。
実際、プレイ後の感想をいくつか確認したところ、皆さんそれぞれ詰まる場所が異なるようでした。思い込みや勘違いも人それぞれなので、詰まる場所も人それぞれといった印象。
本作にはバックログの閲覧機能がないので、つい会話を連打で早読みしてしまい、解法のヒントまですっ飛ばしてしまったときなど、余計に難易度が上がってしまうこともありました。
最初からこのタイトルの仕掛け全般と相性の良い人なら、あまり悩まされずに進むこともできると思いますが、こういった仕掛けや思考に慣れていないプレイヤーだと、出てくる仕掛けのうちでも特に相性の悪いものに行き当たったとき、相当手間取ってしまう可能性もあります。
だからこそ、解けたときの喜びも大きいものとなりやすいですが、途中で詰まって放置してしまっては本末転倒ですよね。
どうしても何度トライしても先へ進めなくなってしまったときは……ネット上のリプレイ動画を観るなどして、他の人がどのように進めているのか確認するのも1つの手かなと。
斬新さは無いがしっかりと作り込まれたストーリー
ジャンプを使ったアクションやパズルが散りばめられているとはいっても、本作品に用意されているのはそれを補完するためのとりあえずのストーリーではなく、しっかりと作り込まれたマルチエンディングに耐える物語です。
アニメでは既に描かれてきたようなテーマが主題となるため、物語に斬新さはありませんが、そのぶん小さなところまで手が込んでいます。中盤、これまでの自分の行動や選択の意味をあらためて問われる展開も待ち受けていますし。
登場する「モノ」たちも、みな非常に魅力的。ネタバレになるので具体的には書きませんが、まさかあんなけったいなモノがやたら格好良く見えるようになってしまうとは(笑)
マルチエンディングでクリア後の隠し要素もあり
『フォーゴットン・アン』をクリアするまでの時間は、アクションやパズルでどれだけ誤った「思い込み」や「勘違い」をしていた時間が長かったかによりますが、通常は10時間以上かかるのではないでしょうか。
本作はマルチエンディングなので、一度クリアした後も「もし別の選択をしていたら……」とか「もしかして、あそこは別の切り抜ける方法があったのかも」など、気になって再度プレイしてしまいたくなります。
また、クリア後は集めた思い出のコレクションを確認したり、好きな章からゲームをリスタートしたりといった新要素が加わります。
その辺のクリア後のプレイヤーへのフォローも含めて、『フォーゴットン・アン』はしっかりと作り込まれた良作です。