『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』は、フライハイワークスがNintendo Switchのダウンロード専用ソフトとして配信する(開発はハッピーミール)、伊勢・志摩を舞台とするファミコン風のコマンド選択式アドベンチャーゲームです。
当初は3DSでの発売が予定されていたようですが、紆余曲折?で最終的にはSwitch用としてリリースされました。
ファミコン風の旅情ミステリー
タイトル画面から、黒い背景にタイトルのみというファミコンによくある(当時そうせざるを得なかった)デザインです。
思えばFC版の『ドラクエIII』なんて、タイトル画面はもっと真っ黒ですよね(あれは極端すぎか)
ゲーム開始当初は東京からスタートしますが、黒真珠の絡んだ事件の謎を解明するため舞台は伊勢・志摩へ。
ファミコン風の画面なのにコマンドに「スマホつかえ」が並んでいるのは、それだけで不思議な気分ですね。
旅する楽しみを味わえる旅情ミステリー
伊勢、鳥羽、英虞湾。旅情ミステリーの醍醐味は、旅行したことのある地域は旅の思い出と照らし合わせながら、旅行したことのない場所は次の旅の予定を立てながら、観光名所や名産品を楽しみつつストーリーを進められるところです。
カナ「あそこらへんは アゴわん ていうの。
キレイでしょ………。#伊勢志摩ミステリー #フライハイワークス #NintendoSwitch #志摩 #英虞湾 pic.twitter.com/VvN2J9scSa— 竜胆@GNW2 (@lindow) 2019年1月24日
グラフィックは敢えてのファミコンテイストなので、画像だけ見て「鳥羽だなぁ」と感慨深い思いを抱くこともありません。
が、実在の企業やおみやげを彷彿させる存在も随所にちりばめられているので、プレイしている限りは伊勢・志摩を観光している気分に浸れます。
いや、観光じゃなくて事件の調査ですが……なにぶん後輩刑事が観光気分なもので
ヒロインの珠海(たまみ)ちゃんとも、お伊勢参りしちゃいます。
『オホーツクに消ゆ』を知っているとより楽しめる
ゲームのシステムはコマンド選択式で、ほぼコマンド総当たり的な進め方になるのは『ポートピア連続殺人事件』や、何より往年の名作ADV『オホーツクに消ゆ』と類似した作りです。
というよりも、本作品は同じ荒井清和氏がキャラクターのイラストを手がけた『オホーツクに消ゆ』のオマージュが強く、随所に『オホーツク』を知っていると楽しめる仕掛けが施されています。
両作品を知っているプレイヤーなら、いろんなところで「これはアレのオマージュだな」的にニヤニヤ。
コマンド選択式ならではの魅力とは
ストーリーに関しては、偶然知り合ったヒロインである珠海ちゃんやカナちゃんが事件関係者であるなど、ご都合主義的な面は多々あるものの、それはそれとして、意外な犯人を用意するなど旅情ミステリーとしてはよくまとまっています。
時や場所を異にするいくつかの事件が、しだいに1つの事件へと集約されていく流れなど、短すぎず冗長すぎず、1,000円で手軽に楽しめるアドベンチャー・ゲームとしては十分な出来ではないでしょうか。
今回コマンド選択式のADVを久しぶりに遊びましたが、この形式はこの形式で、今でも十分に楽しめる仕組みだなと改めて感じました。
コマンド総当たり的になってしまいやすいことから、次第にその手間が敬遠されて絶滅危惧種になりかけているコマンド選択式ですが、あるコマンドでフラグを立ててから別のコマンドを使うことで、それまでとは違った展開になったり、事件とは直接関わりがないもののちょっと面白い会話が進んだりするのは、この方式ならではですね。
ファミコン風とはいえ、いま現在の話なので何か分からないことが出たらとにかく「スマホつかえ」でググる流れになるのも笑えます。
プレイしていて気になった点
ただ、コマンド選択式ならではの楽しさについては、もし次回作があるならより意識した作りになっていくと、『オホーツク』ネタ以外の掛け合いでもより楽しさが出てくるのかな、とも。
また一部の文章に日本語としてくどいところや、まだ話題に出ていないはずの話題が当たり前のように交わされてしまうこと(下に位置するコマンドを先に選択すると、上に位置するコマンドを実行済みとの前提で話が進むことが2,3度ありました)、平仮名が誤っている箇所(もしかしたら意図的?)などは少し気になりました。
それと、制作の手間は増えてしまうかもしれませんが、長いセリフの場合、次に同じコマンドを選択したときにはできるかぎり1画面で収まる短いセリフに置き換わっていてくれると、プレイヤーとしてはストレスが軽減されるので助かります。
このあたり、逆に昔のADVはフォローが行き届いていたものが多かったんだなと、逆に思わされました。
「・・・」などでタメが欲しい箇所も
あとついでに要望を書いておくと、ラストのあたり、特にスタッフロールに進む手前などは「・・・」などを使ってボタンを1回押すごとに「・」1個表示させるなど、少しタメを作ってほしかった部分もありました。
ラスト付近は登場人物のセリフが長く、次のメッセージを表示させるためにボタンを連打していることが多いぶん、意図せずサクサクッと進んでしまって余韻がなさすぎたので。そこは、ちょっともったいなかったかなと思います。
観光名所の写真やお土産収集の要素とか
せっかくなので、もう一つ要望を。
旅情ミステリーはその土地ならではの魅力を詰め込みやすいジャンルです。
ストーリーを進めるだけではなく、たとえば観光地で「スマホつかえ」「カメラ」を選択することで旅のアルバムフォルダに写真が増えて行くとか、コマンドの選択順や回数によってお土産を買ったりもらったりして土産物フォルダにアイテムが増えていくなど、それを通したアイテム収集や観光情報もサブ要素で用意されていると、ゲームではあってもその土地を見て、歩いた感覚がより強まります。
コマンド選択式だと、どうしても同じセリフを何度も聞くことになってしまうので、その中でたまにお土産アイテムがゲットできる流れなどが隠されていれば、プレイヤーのストレス軽減にも効きそうです。
このへんの収集要素や旅行の振り返り要素は、あくまでしっかりした幹あってのサブ的な位置づけであれば、余力があれば、ということになりますが。
取扱説明書もファミコン風で統一
ちなみにこの『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』、ゲーム内で読める取扱説明書もファミコン風です。
説明書を開いているときのみ、ファミコンBGM風ではないちゃんと歌の入ったテーマ曲が流れます。クリア後にストーリーを思い浮かべながら聴くと、より印象深いです。
感想の後半で気になったところは挙げましたが、全体としては久しぶりの旅情ミステリー、コマンド選択式ADVということで、じっくり楽しむことができました。
いまさらコマンド選択式を採用するのは冒険以外の何ものでもないと思いますが、好きなジャンルなので、舞台を変えて、解決方法を変えて(アリバイ崩しや密室崩しなど)、次の作品へと繋がってくれると嬉しいですね。