PS4版『FATAL TWELVE (フェイタルトゥエルブ) 』は、PC向けにあいうえおカンパニーが開発したインディーズのアドベンチャーを、プロトタイプが移植してリリースしたタイトルです。
物語はほぼ一本道で、動き出すまでスローペースなところはプレイヤーを選びそうですが、登場人物の設定やビジュアルなどゲーム全般が丁寧に作られている良作です。
ゲームは、主人公の獅子舞 凛火(ししまい りんか)が列車の爆発事故によって命を落とし、同時期に死を迎えた11人の登場人物とともに、1人だけの生き返りを賭けたデスゲームに巻き込まれていくところからスタートします。
選択肢は少なめのノベル系
『FATAL TWELVE』は、途中に現れる選択肢によってストーリー展開が分岐するタイプのアドベンチャーです。
ただし、選択肢の現れる頻度は少なめ。そのため、多数の分岐からルートを選んで進めるタイプではなく、どちらかといえばじっくりと主軸のストーリーを追っていくタイプのノベル系ゲームになります。
そのためプレイヤーがストーリーに干渉できる余地が少なく、ゲームならではのインタラクティブ性は低めです。
ただし、前半で分岐を設けずに様々な人間関係や登場人物たちの心情を丁寧に描き、それが後半に重なり合って効果を出す作りなので、この点は後半まで進んでしまえば短所には感じませんでした。
とはいえ、前半は主人公が生きる意志を強く表しませんし、デスゲームに参加する他の登場人物も性格や状況が分からないため、やはりゲームを先へ進めようというモチベーションは高まりにくい面は否めません。
用意されたビジュアルが多い
インタラクティブ性とは逆に、『FATAL TWELVE』で用意されているビジュアル・イラストは、同じようなシステムをとる他のゲームと比較して多めです。視覚面で楽しみつつ、ゲームを進めていくことができます。
たとえば主人公の凛火が自宅一階の喫茶店で注文された飲み物を提供するとき。
一般的なアドベンチャーならテキストのみで済ませるところ、FATAL TWELVEの場合は「コーヒー」と「カフェオレ」を異なるビジュアルで表現してくれます。
これはホットコーヒーを作るとき。
こちらはカフェオレを作るとき。
ホットコーヒーとカフェオレの注文で、それごとに表示される画像がわざわざ変わる、しかもテーブルに運んだ後はカップやグラスまでちゃんと絵で表現されるとは。手が込んでるなぁ。#FATALTWELVE #fatal12 #PS4 pic.twitter.com/QpLNLGbyM5
— 竜胆(りんどう)@GNW2 (@lindow) August 8, 2019
凛火の友人である海晴(みはる)がバイト先の喫茶店でカップを運んでくるとき、それを力強くテーブルに置いて感情を表すシーンがあります。
ここも他のゲームならテキストだけで済ませそうなところですが、『FATAL TWELVE』ではしっかりとビジュアルで表現してくれるので印象に残ります。そして、こういった丁寧なビジュアルが後半に活きてくる展開もまた多いです。
他にも、登場人物の立ち絵も顔つきだけでなく手振りや姿勢にもバリエーションを持たせてくれているので、これらが相まってキャラクターの魅力向上につながっています。
さらに、キャラクターのグラフィックにとどまらず『FATAL TWELVE』では背景グラフィックの種類も他の作品と比較して多めに感じました。
既にツイートしたけど、普通なら作る手間を考えてテキストのみで済ませてしまうようなシーンでも、立ち絵だけじゃなく背景も含めてわざわざ用意されていることが多いのは、丁寧に作られているなと思わされました。(画だけじゃなくて設定も結構時間かけてる感)#FATALTWELVE #fatal12 #PS4 pic.twitter.com/vhCMYEVpnZ
— 竜胆(りんどう)@GNW2 (@lindow) August 13, 2019
学校が文化祭なら背景にもそれが反映されますし、ゲーム内にいくつか登場する商業施設や観光名所も、それぞれがしっかりと描かれています。
フルボイスであるにもかかわらず、パッケージ版も含めて価格が安価に設定されているため、ゲーム中は「こんなにビジュアルに手間をかけてしまって、コスト的に大丈夫なの!?」と心配になってしまうほどです。
デスゲームのルールが把握しにくい
『FATAL TWELVE』では、日曜日に行われる「女神の選定」という他者を脱落させ自分が生き残るためのデスゲームを主軸にして物語が進みます。
女神の選定に参加することになる登場人物は12人いるため、約12週にわたって女神の選定と日常生活を交互に繰り返していくことになります。
プレイヤーの視点は主人公の獅子舞凛火であることが多いですが、完全に固定されているわけではなく、途中で他の「女神の選定」参加者へと切り替わって進むこともあります。
視点の切り替えによって他の参加者の生活や思い、現世への未練などが垣間見えることにより、凛火として女神の選定で他の参加者を脱落させる際の葛藤や迷いがより鮮明になっていきます。
この女神の選定は凛火の夢の中で進行しますが、ルールがちょっと複雑で(というよりも例外的な扱いや例外の例外的な扱いが多いので、わかりにくい)、2,3回選定に参加しただけではどのようなルールでそれが行われているのか、つかみにくいところがあります。この点はゲームの短所かもしれません。
ただし、『FATAL TWELVE』には自分の手札を切ったり相手のカードを読んだりという戦術的な駆け引きがゲームとして組み込まれておらず、プレイヤーが操作せずともルールに応じて登場人物たちが駆け引きを繰り広げてくれます。
そのため「女神の選定」のルールをあまり理解せずとも、ゲームを進めることに支障はありません。
このゲームはデスゲームの駆け引ではなく、デスゲームに巻き込まれた人々の葛藤や決断を描くことがメインに据えられています。したがって、もし『FATAL TWELVE』にカードゲーム的な要素を期待しているなら、開始早々に大きなズレを感じてしまうかも。
前半、盛り上がりに欠けるところもあるが……
女神の選定に参加せざるをえなくなった12人は、年齢、性別、職業、人種などの幅が広く、女神の選定までに描かれる登場人物の思いや状況も様々。
それぞれが抱く現世での未練や生への執着が異なるため、各週に発生するイベントや展開もワンパターンにならずに済んでいます。
もっとも前述のとおり、前半は女神の選定に参加する他の11人(うち1人は同級生なので性格には10人)の素性があまり知れませんから、そこでデスゲームとして参加者同士の駆け引きや脱落が生じても、どうしても他人事に思えてしまうところも。
この点は既に触れたとおり、後半になるほど主人公以外の視点から各参加者の生活を垣間見る機会も重なり、それぞれの参加者に対して愛着も湧いてくるため、次第に解消されていきました。
じっくりキャラを描くことが後半に効いてくる
そして、物語が進むに従い主人公が「女神の選定」で自ら他者を脱落させる決断を取らざるをえないシーンも増えることから、自分が生き残るために他者の生存可能性を奪うという行為の痛みもより強まっていきます。
12週もあることで、前半はどうしても冗長な展開に感じてしまうところもあります。が、12週にわたって長い期間(といっても当事者にとっては非常に短い期間ですが)各キャラクターをじっくり描いていく作りであるからこそ、前半には納得がいかないキャラの振る舞いにも後半でしっかりその理由が開示されていく展開も用意され、主人公が次第に考えを変えていく流れも効果的に描かれているなと思わされました。
テキスト、グラフィック、両面で丁寧に描写していくところが、このタイトルの大きなプラス要素です。
制作者の熱量がゲームに上手く流れ込んでいる
『FATAL TWELVE』においては、命がけのバトルを繰り広げる反面、ごくごく日常的な生活も並行して進んでいくのが特徴的です。
女神の選定を含めて、各キャラクターの個性がしっかりと描かれています。ちょっと出てすぐ消えるキャラであっても、その後のフォローによって印象が薄くなりすぎない配慮がなされています。
表に現れる振る舞いだけではない、内面的な葛藤や思いも描写されていくので、どのキャラにもステロタイプで薄っぺらい印象を抱かずに済みました。
最初に登場したときには、ゲームの雰囲気を1人で破壊しやしないかとヒヤヒヤだったオデットさんも、話が進むほど魅力度がぐんぐん上昇。むしろ『FATAL TWELVE』はオデットさんがいてこそ光るな、と思わされるまでに変貌してしまいました。
既に何度もこの単語を使ったと思いますが、このタイトルは非常に「丁寧」に作られている印象が強いです。グラフィックの用意された枚数もそうなのですが、何か違和感や疑問が湧いても、大抵のことはちゃんとその理由があとから開示されるので不満が残りません。
ちなみにゲーム内では、クールビューティの海晴に無理矢理こんなことをさせる背徳感も味わえますが、なぜクールな海晴がミスマッチなメイド喫茶で働いているかといった疑問にも、後半でしっかりフォローが入るのがこのゲームの律儀なところです。
物語やキャラクターの設定に時間をかけないと、こうした印象はなかなか作り上げにくいはず。制作者の熱量がゲームに上手く流れ込んでいる印象を受けました。『FATAL TWELVE』、丁寧に作り込まれた良作です。