キャサリン・フルボディ【感想・レビュー】

レビュー・感想

『キャサリン・フルボディ』は、2011年にPS3・Xbox360向けに発売された『キャサリン』を大幅にリメイクして作られた、アクションパズルADVです。

同じアトラスではペルソナシリーズにも近い、オシャレな演出やBGMが特徴的。

ゲームは3つのパートから構成

『キャサリン・フルボディ』はゲーム内での1日がアニメーションパート、ADVパート(バー)、パズルパート、3つのパートから構成されています。

アニメーションパートでは特に操作する必要はなく、その日のドラマがムービーとして展開します。

アニメーションパートの後は、バー「ストレイシープ」でのアドベンチャーパートが始まります。バーに集う仲間や他の客に話しかけることで、様々な会話を通して各登場人物をより深く知ることができます。

バーでは誰かに話しかけるたびに時間が経過するので、途中で帰宅してしまう人も出てくるため、全ての人と満遍なく会話することができません。誰と会話したか、どんな会話をしたかによって、どのキャラとより親密になったかに変化が生じます。

バーでは仲間や他の客との会話のほか、ケータイを使ってメールの送受信が可能。送られてきたメールに返信するかしないか、返信するならどんな文面で返信するかによって、主要女性キャラとの親密度が変化し、ストーリーも分岐していきます。

バーでしこたま飲んだ後、自宅に帰ってからは主人公の見る悪夢の内容として、パズルパートがスタート。このパートのみ、アクション性が問われる作りになっています。

パズルパートは石を動かして一番上を目指す

毎晩うなされる悪夢としてのパズルパートでは、高く積み上がった石(ブロック)を押したり引いたり動かして、一番上にある出口を目指します。石は時間の経過とともに一番下から一段ずつ崩れ落ちていくため、ゆっくり登っていると足場が無くなって奈落へと転落、ゲームオーバーとなってしまいます。

キャサリン・フルボディ

以前に紹介した『ガブッチ』もブロックを食べてゴールまでの道を作り出すパズルでしたが、あちらは詰め将棋のように出口から逆算してルートを考え、そのルート作りを実現するようなパズルでした。対して『キャサリン・フルボディ』のほうはもう少しアバウトというか、ゴールまでの自由度が高いぶん様々なアクションを要求されるタイプのパズルになっています。

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石同士の辺を接することで落下しない独自のルール

『キャサリン・フルボディ』の石は、下に石が無い状態でも辺と辺が接していれば下に落ちることがありません。また、石には様々な種類があるため、それぞれの石の特性を活かして足場を作ったり組み上げていく必要があります。

パズルのルール

1日の最終ステージにはボス的な存在が待ち受ける

ゲーム内で一晩に登り切らなければならないパズルパートは、概ね3~4ステージです。最後のステージには、一番下からボスキャラ的な存在が追いかけてきて、石を壊したり別の種類の石に変えたりしながら、プレイヤーの邪魔をしてきます。

ボスキャラが登場しないステージも、結局は時間の経過とともに足場が崩れるのでノンビリ構えていられないのですが、やはり何かが実際に追ってくる演出というのは恐怖感を倍増させる効果がありますね。

他のステージではミスが少なくても、追いかけられるシチュエーションではどうしてもドキドキして操作ミスを起こしてしまうことも。

パズルパートのBGMは、有名なクラシック曲のアレンジバージョンが多いのですが、これらは独特の雰囲気を持つ『キャサリン・フルボディ』の世界観と非常にマッチしていて、聴いていて心地良いです。

実際にプレイしているときは、ちゃんと聴く暇がなかなかないんですけどね。

合間(踊り場)で問われる二択はストーリーの分岐にも影響

ステージの合間では、恋愛観や人生観に対する二択が表示され、いずれかを選ぶことで次のステージへ進む作りになっています。二択の回答比率は次のステージ前で明らかにされ、他のプレイヤーや世間一般ではどちらの回答を選んだ人が多いのか確認することができます。

男性と女性でかなり比率の異なる回答などは興味深いものがあるとともに、この二択の積み重ねによってストーリーの展開も次第に左右されるようになります。

3人のキャサリンの間で揺れる主人公ヴィンセント

さて『キャサリン・フルボディ』のストーリーですが。

幼なじみで既に5年の付き合いがある恋人のキャサリン(K)から結婚の話を切り出され、それを重荷に感じてしまったタイミングで小悪魔的なキャサリン(C)と出会うことにより、主人公ヴィンセントはついつい浮気心が生じてしまい……。

ということで、恋人と浮気相手の間で揺れる優柔不断な男ヴィンセントを操作しつつ、どう男女関係の、というか浮気を原因とする修羅場を乗り切っていくかが本作のメインストーリーとなります。

大幅にリメイクされた本作『キャサリン・フルボディ』では、第3のキャサリン(Q)も関係に加わってくるので、プレイヤーの決断によっては三角関係ならぬ四角関係にまで発展する可能性もあります。

3人のキャサリンの間で、ヴィンセント、とにかく揺れ動きます。何度、挙動不審に陥った表情を見ることやら。

メーカー側ではこの作品に「大人のジュブナイル」「大人のアクションアドベンチャー」「アダルト&ホラー」といったコピーを附していますが、もとの『キャサリン』から8年が経過した今現在でも、結婚や妊娠、あるいはバーでの他愛ない会話など、それなりの年齢だからこその題材を扱ったゲームはほとんど無いので、そういった意味ではまだまだ新鮮です。

ただ、大人向けとはいっても世界観やキャラクターはかなり荒唐無稽で現実離れしているため、そこで織りなされる会話も極端なものが多く、リアルなドラマというより形式化されたアニメ寄り。

その辺、プレイ前に想像していた内容とズレを感じるプレイヤーもいるかもしれませんね。

アドベンチャーとパズルの合間で揺れるプレイヤー

3人のキャサリンの間で揺れる主人公ですが、その間、プレイヤーはアドベンチャーパートとパズルパートのゲーム性の違いによって、その合間で大きく揺れ動くことになります。

アドベンチャーパートをメインと捉えてストーリーの続きが早く知りたいプレイヤーにとって、間に挟まるパズルパートは物語への没入感を阻害する邪魔な存在と成り果ててしまいます。

逆にパズルパートをメインと捉えて各ステージで短時間かつ高い評価でクリアしたいプレイヤーにとって、間に挟まるアドベンチャーパートは冗長で面倒な存在となってしまいます。

そこまで極端に振れなかったとしても、実際、プレイしているとゲームの進行に応じていずれかに重きを置いてしまい、もう一方のパートが若干なりとも億劫に感じてしまうこともあるのでは。

ゲーム性のかなり異なるパートが組み合わさっていることが『キャサリン・フルボディ』の大きな個性であることは確かですが、このあたりのどっちに軸足を置いても感じてしまう不安定さ、片方のパートを面倒に感じてしまう短所はリメイク前の『キャサリン』から挙がることが多かった点です。

『キャサリン・フルボディ』では改善も図られているが……

リメイク前の『キャサリン』ではパズルパートの難易度が高かったこともあり、アドベンチャーパートを楽しみたいプレイヤーが先へ進めない弊害も生じていました。

そのため『キャサリン・フルボディ』では難易度safetyが追加され、超絶に難易度を下げながらパズルパートをプレイすることが可能となりました。そしてフルボディではそれに留まらず、最悪、パズルパートを邪魔に感じてしまったらスキップして全部飛ばせる仕様も追加されています。

これによってパズルパートで詰まってしまう問題は解決が図られています。が、これだとなおさら「パズルパートって、そもそも必要ないのでは?」とゲームの半分を構成する要素を否定することにも繋がってしまいます。

safetyモードやパズルパートのスキップによって、途中で挫折してしまうプレイヤーを救済することはできても、異なるゲーム性を組み合わせたことによる弊害自体は、あまり薄めることができていないように感じます。

難易度を下げすぎると詰まらないぶんつまらない

パズルパートの難易度に関しては、もう1つやっかいな問題があります。

それは、パズルの難易度を下げてしまうとパズルパート本来の面白さをなかなか感じることができず、途中で詰まってしまうことがなくなるぶんだけパズルパート自体がつまらなくなってしまうこと。

ルールを覚えるまでは難易度Easy以下でもよいのですが、ある程度覚えてしまったらNormal以上に上げていかないと(といっても途中で難易度を変えにくいシステムなのですが)、淡々と石の段を登るのみのパズルパートが、余計に単純作業と化してしまう恐れがあります。

ということで、パズルパートが邪魔だと感じる人は、いっそ逆に難易度を上げてしまうのも手かもしれませんよ。

ただし、それによってパズルパートの楽しさに目覚めてしまった場合、今度はアドベンチャーパートが怠く感じてしまう可能性も否定できないわけですが……。

優柔不断すぎる主人公に途中で冷めてしまうときも

ストーリーについては前述のとおり、3人のキャサリンの間で揺れ動くヴィンセントの右往左往を楽しむことになります。

ところが、いくら女性関係から生じた修羅場をかいくぐるスリルとはいってみても、結局のところヴィンセントの優柔不断さが招いた自業自得の展開であり、周囲に迷惑をかけているだけの主人公に対して、プレイ中ふと我に返って冷めてしまうことも。

そして、本来は恋人のキャサリンと浮気相手のキャサリンの間で揺れ動く主人公が明確であったところ、新たに第三のキャサリンを登場させてしまったことによって、もともとの浮気相手であるキャサリンの存在感がかなり薄れてしまったようにも感じました。

第三のキャサリンは『フルボディ』で初めて登場することになりますが、この点は作品内で違和感なく馴染んでいると思います。

それともう1つ。本作はマルチエンドであることが面白さの1つではありますが、ゲームの進め方によって最初のプレイでトンデモ展開やレアなエンディングに迷い込んでしまう可能性もあります。

そうなると初回プレイ時に受けるストーリーの印象は、なんだか共感しにくいおかしなものになってしまうかもしれません。

というか、ぶっちゃけ、プレイしてもプレイしても本筋のエンディングに進めない私がそうなってしまったんだわw

なんだかんだ、最後は強引にでも納得させてくれる

ただし、これらの問題については1つのルートのみではなく、分岐する別ルートもプレイすることによって登場人物の違った一面が垣間見えたり、反応が不自然と思っていたことに一応の理由があったりすることが判明していくので、次第に解消されていきました。

また、プレイしていると開発者サイドがゲームに注入した熱量の高さをとヒシヒシ感じ取れるので、ちょっとした疑問や不満は本作の様々な魅力によって、最終的には力業でねじ伏せられてしまいます。声優さんの演技も素晴らしく、声の演技で納得させられてしまうことも多かったです。

作品全体のパワーがあるので、部分的には欠点や問題点が目立ったとしても、最終的な評価としては「かなり楽しめた」という結論に至りました。

ただただ上を目指す「BABEL」が面白い

最後にもう1つだけ。

本編ではどうしてもアドベンチャーパートの先やまだ見ぬエンディングが気になって、どこかしら中途半端な気持ちで登ってしまいがちなパズルパートですが、『キャサリン(・フルボディ)』にはBABELという、ストーリーとは関係なくただただ上を目指すためのモードが用意されています。

このBABELはもっとも難易度の低いステージでもかなりの手応えですが、本編のパズルモードのように頻繁に踊り場で中断が入ったりしないため、純粋にクライムを楽しむことができます。ストーリークリア後にも楽しめる要素としても、十分に魅力的かつ歯ごたえがあります。

ゲーム本編ではパズルパートに対して邪魔としか感じなかった人でも、BABELでは全く異なる感想を抱くかもしれませんよ。