『VA-11 Hall-A』は、ベネズエラのSukeban Gamesが開発したサイバーパンク・バーテンダー・アクションゲームです。
ベネズエラ製って珍しい気もしますが、随所に日本っぽいネタが取り入れられていること、またキャラの表情の変化が日本のアニメ的なこともあって、いわゆる洋ゲー的な雰囲気はあまり感じません。主人公のジルなんて自宅ではコタツでくつろいでるくらいですし、親近感ありすぎ。
ところで正式に付されたジャンル名には「アクション」と入っていますが、ゲームにアクション要素はほぼありません。
公式 VA-11 Hall-A
『VA-11 Hall-A』では西暦2070年代のアメリカのグリッチシティという街にある、一軒のバーが舞台となります。
バーのコード名はVA-11 HALL-A、この世界では通称「ヴァルハラ」と呼ばれていて、お店のバーテンダーである主人公ジル、店のボスのディナ、バーテンダー仲間のギリアンの3人が(主に)働いています。
ディナとギリアンはたびたび画面に登場しますが、主人公のジルはプレイヤーキャラなので、バーで勤務中は画面手前に位置することになりグラフィックではほとんど描かれる機会がありません。
ゲームのグラフィックは、ドットの目立つひと回り、いやふた回りは昔のテイストで描かれています。
『VA-11 Hall-A』、刺さる人にはグサグサ刺さるはず。ただそれを絵面から判断しにくいので、食わず嫌いでスルーしてしまった人も多そう。たとえば書棚に1冊でもハヤカワ文庫が並んでいるなら、一度遊んでみてほしいなと。
Time to mix drinks and change lives. https://t.co/IceeAu6WRW#va11halla pic.twitter.com/e5b0HdECkK— 竜胆(りんどう)@GNW2 (@lindow) August 6, 2019
本作はコミカルな要素が多くとも、全体としてはかなり気合いの入ったサイバーパンク風のテキストアドベンチャーです。
ゲームは客との会話とカクテルの提供で進行
『VA-11 Hall-A』では、客から注文されたカクテルを提供しながら会話を進めることでゲームが進行します。ゲームはほぼバーの店内のみ、営業が終われば後は自宅へ直行という非常に狭いエリアを舞台としているのが特徴です。
ゲームの舞台は限られた空間ですが、そのぶん客層の幅が広く、(一見)まともそうな人から明らかにヤバそうな人まで多種多様な客が店に訪れるため、閉塞感はありません。
舞台が近未来なので、進歩した科学の力で人体に手を加えている人や、そもそも人間ではなくイチから人工的に作られたアンドロイド、既に人間といえるのか判然としない状態にいたった客も現れますし、どう見ても人間ではない客も訪れます。
人間ではないというか、犬だよ、柴犬!
客の性格やノリも個性が強く、24時間ストリーミング配信を行っている女の子が来店すれば延々とハイテンションな会話が続きますし(その間、ご丁寧にニコ動風の字幕が画面を流れる)、逆に寡黙で無愛想な客が来店すれば会話することすら難しいことも。
『VA-11 Hall-A』はテキストアドベンチャーですが、他のゲームにあるような選択肢やコマンド選択がゲーム中に表示されません。客の注文に対してどのようなカクテルを提供するかによって、会話やエンディングの種類が変化していく作りになっています。
主人公がバーテンダーであるからこそ、客とのコミュニケーションは会話と提供するカクテルのみ。そしてそのカクテルによって物語が紡がれていくのは、ゲームのシステムと設定が非常にマッチしていますね。
提供するカクテルによって会話が変化
ヴァルハラを訪れた客からは、カクテルの名前を指定しての注文が入ることもあれば、なんとなくのニュアンスで注文されることもあります。
また、話の流れによっては客が指定したカクテルではないものをあえて提供するほうが喜ばれることもあるため、単に頼まれたものだけ機械的に作ればOKというわけでもないところが、このゲームに幅を持たせています。
「甘いカクテル」「冷たい飲み物」というように大雑把なジャンルで希望を伝えてくる客もいますし、中にはそれほど常連でもないのに「いつものやつ」と困った注文の仕方をする輩もいます。ほんと困るんだよな、こういう自己中なヤツ。
誰が何を注文したのかある程度覚えていないと、ここぞというときに適切なカクテルを提供することができず、より関係性を深めた会話を引き出せないことも。
カクテルは数十種類ありますが、注文が入る都度、作り方のマニュアルを参照できます。マニュアルには作り方だけでなく、そのカクテルの特徴もしっかり説明が入っているため、客の注文に応じたカクテルを提供すること自体にはそれほど難しさはありません。
ただし、ゲーム開始直後のチュートリアルについては、4~5回シェイカーを振るのと6回以上振るのとではできあがるカクテルに大きな違いが生じることがわかりにくい(ミックスなのかブレンドなのか)ため、ここでしばし躓いてしまう人も結構いるようです。冒頭に最大の難関が。
労働の後は自室でのくつろぎタイム
一日の終わりには、バーの売り上げに応じて給料が支払われます。集中力を切らさずに客のニーズにマッチしたカクテルを提供しつづけることができれば、ボーナスやチップの額が加算されて総振込金額が増えます。
バーから自宅に帰ったら、コタツでくつろぎながら情報端末でネット上の情報やブログ、メディア等をのんびり閲覧することが可能。
ネット上の情報が後日に来店する客とリンクしていたり、逆に客が話した内容と関連するニュースがネットで配信されていたりと、断片的な情報をつなぎ合わせていくことによって、次第にゲーム内の世界観や全体像が把握できるようになります。
自宅にいる時間は、ショップで怪しげな?アイテムを購入することもできます。なにかアイテムを買えば、ドットで描かれたジルの部屋にもちゃんとグラフィックとして反映されるので、些細なところですが部屋にどんなアイテムを揃えていくのか決める楽しさがあります。
ただし給料は好きなものばかり買っていられるわけでもなく。ゲーム外の現実世界と同様、容赦なくやってくるのが家賃や電気代の請求です。
適切ではないカクテルを提供しつづけたり、稼いだ給料で不必要なアイテムまでいろいろと購入してしまうと、これらの支払いを乗り切れずにゲームオーバーとなってしまいます。
ゲーム内でも固定費に追い立てられる毎日……。序盤にぱーっと散在してしまうと、終盤に響いてくる可能性もあるため要注意なのです。
個性豊かな客との会話でグイグイ引っ張られる
『VA-11 Hall-A』は上で紹介したように、会話を進めつつ途中でカクテルを提供するだけという、非常にシンプルなシステムを軸にしています。
となれば、ゲームを盛り上げる上で重要になってくるのはバーに訪れる客との会話ですよね。
この点、VA-11 Hall-Aは非常に個性的なキャラクターが様々な話題を投げかけてくるので、をれを聞いて(読んで)いるだけでも十分に楽しめます。会話の魅力でグイグイと引っ張られて、最初はいけ好かないヤツと思っていた客にも、いつしか愛着が湧き始める始末。
最終的には「明日は誰がどんな話題を持ちこんでくるのだろう」「それに対してジルはどんな対応をするのだろう」と先が気になって、コントローラーを置く間も惜しんでプレイし続けてしまう魅力があります。
ゲーム内の世界観も直接的に表現するのではなく、バーを訪れる客の漏らす言葉の端々から、あるいは会話やネットメディアから、社会構造やそこでの問題点が浮き上がってくるので、プレイヤーとゲーム内世界の距離感も自然と近くなっていきます。
そして客が毎晩もたらす話題の内容も、近未来の話であるにもかかわらず一個人としての悩みや不安でもあることから、「これはあの人の悩みと共通だな」とか「これは自分もよく口にする話題だな」など、プレイヤー自身と重ね合わせて共感したり考えさせられるものが多いのも魅力ですね。
下ネタ満載の中でシリアスな話題が際立つ
この『VA-11 Hall-A』、会話の内容にはかなり下ネタが含まれてくるため、客によってゃ次第にアダルトな展開を見せることも多いです。
具体的にグラフィックとしては描かれないのでCERO Dで済んでいますが、もし描いてしまえばZ指定必至のハードな下ネタや際どいジョークもてんこ盛り。リビングのテレビで遊ぶタイプのゲームではないですね。
ただし、下ネタ的な会話が展開する際も湿った感じにはならず、むしろカラッとしたジョークとして扱われているので、そこから受ける印象はだいぶ健康的です。
そして、それぞれの客がたまに表す不安や、不意に見せる心に刺さったままのトゲが、軽口や下ネタ、ジョークが大半の他愛ない会話の中から、コントラストをなして立ち現れてくるのもこのゲームの大きな魅力の一つといえます。
サイバーパンク的な世界観を持つゲームですが、ストーリーはバーを訪れる客とバーテンダーの成長物語といった風合いが強いです。そのため他のゲームを進める途中、ちょっとバーに立ち寄る感覚で始めるのもオッケー。
魅力に富んだ愛おしい1本
カクテルを作る作業は途中からマンネリ化するきらいもありますが、マニュアルを見ずとも注文されたカクテルを作れることに気つけば、バーテンダーが板についてきたなと自らの手際を自画自賛。
もしゲームで描かれる世界観が合いそうだと少しでも感じたら、あるいはSF好きだけど「絵があまり好みではないかな」と逆に敬遠している人がいたら、一度は試してみてほしいと思える一本です。
上では触れませんでしたが、ジュークボックスで曲順を自由に選択できるBGMもこのゲームの魅力に大きく貢献しています。
ところでこのゲーム、スタート時に食べ物・飲み物の用意を促されますが、素直に従っておくほうがよいですよ。客にカクテルを提供するうち、プレイヤーの自分まで喉を潤したくなること必死です。
キャラやシナリオ、BGMが非常に魅力的で、ゲームクリア後にも余韻の残る好きなゲームの1本です。熱いファンが多いのも納得。
私はPS4版を遊びましたが、タッチパネルで操作できるSwitch版のほうが、カクテルを作る作業はより直感的で楽かもしれませんね。(といいつつ、好きすぎてその後にSwitch版も購入)